マンドリンオーケストラの大編成

イタリアの大編成マンドリン合奏 

 イタリアでは1870年のナポリ海浜博覧会のために組織された100名を超える大規模な編成でGiorgio Mticeliの海浜博覧会小夜曲が演奏された。

 ブランツォリ(G.Branzoli)の「望まれし日」(GIORNO DESIATO Capriccio)はマンドリン4部、マンドラ、マンドロンチェロ、マンドローネ、ギター、アルモニウム、アルパとティンパニ(中野二郎により編曲)

 シ ルベストリー(Primo Silvestri)の「夏の庭」(Giardino Estato,crepscoro)はクワルティノ2部、マンドリン6部、マンドラコントラルト2部、マンドラテノーレ3部、マンドロンチェロ2部、マン ドローネ(バス)、ギター、トライアングル、シストロ(打楽器の一種)というマンドリン族の大編成のものである。なおシルベストリーの作品にはオッタ ヴィーノというマンドリンの1オクターブ上の楽器の記載もある。

ドイツの大編成マンドリン合奏

  ドイツの作曲家コンラート・ヴェルキは管楽器や打楽器を加えた編成の作品を1920年代に作曲している。たとえば序曲嬰へ短調(Overture Fis-Mall Op.2)ではフルート2、オーボエ1、クラリネット2、バスーン(ファゴット)1、ホルン2、およびマンドリン1,2、マンドラ、マンドロン チェロ、ギター、コントラバスの弦6部となっている。打楽器はティンパニ、トライアングル、グロッケンシュピール、タムタム。弦の人員は50名程度と思われる。その後、ツプフ・オーケストラの台頭とともにヴェルキの作風も小編成化の方向となった。

 同じくウィリー・アルソフの交響曲も、Fl、Ob、Cl、Bn、Hr、打楽器の組み合わせ、ゲルハルド・ローゼンシュテンゲルはFl、Ob、Cl、Bnの木管楽器を含むマンドリンオーケストラの曲を書いている。

鈴木静一の大合奏曲

 鈴木静一作曲の8楽章からなる「交響的幻想曲シルクロー ドop.50」の編成はフルート2、オーボエ1、クラリネット2、ファゴット1、ホルン1、トロンボーン1、マンドリンⅠ,Ⅱ、マンドラ、マンドロンチェ ロ、ギター、コントラバスの弦6部とティンパニ、大太鼓、シンバル、スネアドラム、トライアングル、タムタム(銅鑼)のほかチューブベル、古代シンバル、 駱駝のベルなど非常に多くの打楽器が使われている。その他、「平家物語」「パゴダの舞姫」「天草キリシタン」「失われた都」なども打楽器以外は同様で、こ れにピアノが入った編成となっている。鈴木静一の編成は弦6部で100名程度を想定していると思われるが、少ない場合には管楽器をMnやMdのソロでも可能なような楽譜となっている。シルクロードは第8楽章のアッピア街道の部分はホルンが主メロを奏し、Mnが重音の伴奏だが弦が100名規模で演奏した場合にホルン1本では弱い感じがする。アッピア街道というとレスピーギの「ローマの松」を思い浮かべるが、ホルンであれば2,3本、またはトロンボーンが適するように思われる。(写真は2014年 鈴木静一展HPより)青山学院リズムマンドリーノが1968年に演奏したシルクロードではマンドリン44名、マンドラ14名、マンドロンチェロ8名、ギター40名、コントラバス8名、管楽器12名、打楽器5名の合計131名であった。

管楽器を含むマンドリン合奏の大編成

 こうしてみると大編成のマンドリンオーケストラではフルート2、オーボエ1、クラリネット2、ファゴット1、ホルン1~2の変則2管編成(1.5管編成)ティンパニその他の打楽器およびマンドリン1、2、マンドラ、マンドロンチェロ、ギター、コントラバスの弦6部が標準的といえるのではないか。弦楽部は50人から100名程度を想定していると思われる。

中野二郎が打楽器やコントラバスなどの低音部を追加した編曲を多く残している。編曲の注に「打楽器は50名以上の弦楽合奏に入れること」と書かれている。また、オルケスタフェニックスの河野直文氏がフルオケ版と呼ぶ木管楽器などを入れた編曲を数多く行っている。

 マンドリンオーケストラの大合奏はレギュラーオーケストラのシンプルな2管編成と似ている。たとえばラヴェルの亡き王女のためのパヴァーヌは木管2管(オーボエは1)とホルン2本、ボアエルデュのバグダッドの太守は木管2管とホルン2本、ドビッシーの小組曲は木管2管と金管はホルン、トランペットが2本、トロンボーン1本とハープとなっている。いずれも弦5部。マンドリン族の音量が小さいので、弦が100名規模でも管楽器とのバランスを考えるとシンプルな2管編成くらいになるのだろう。逆に50名程度のマンドリン合奏で木管2本の編成は管が強すぎてバランスが悪い。編曲の時に調整する必要がある。

 一般に管楽器としてはフルートとクラリネットを入れることが多いようだ。クラリネットは音の強弱をかなり変化させることが出来る。またクラリネット奏者は通常B♭管とA管の2本を持っている。#系の曲の多いマンドリン合奏ではA管を利用すると楽になる。フルートやオーボエなどでの強弱表現は音域にもよるが範囲は限定される。

打楽器のミュート

 レギュラーオーケストラの曲をマンドリンで演奏すると管楽器と同様に打楽器が強すぎバランスが崩れる。そういった曲を50名以下でやるのには無理がある。もしやる場合はバランスを取るために打楽器にミュートをかけるべきだ。

 シンバル用はウレタンラバー、スネアドラムにはリングミュート、バスドラムの帯ミュート、マッフリングなど市販品もあるが、100円ショップの商品を利用している打楽器奏者も多い。例えばトムトムやスネアドラムに は耐震ジェルマット、ティンパニは制振ゴムを貼る、バスドラムはビーターにフェルトを巻く、穴ありドラムなら中に毛布(ベビー用がいい)を入れるなど。もっと安上がりにするにはスネアドラムにバンドエイドや養生テープ、ティンパニにハンカチを載せてもいい。演奏人員や会場の広さなどにより調整する。ただし、ミュートをかけると音量が減るだけでなく、一般的に高音成分(倍音)の少ない音になる。

マンドリン合奏での管弦楽法

 管弦楽法(オーケストレーション)の著作者ウォルターピストンは「管弦楽法」の序文で次のように述べている。「作曲家もオーケストラ編曲者も、その技術的基礎として個々の楽器の性能や特性を知り尽くしていなければならない。また、各楽器の音を心に思い浮かべてみることが出来るようでなくてはならない。その上で、楽器を組み合わせた場合の効果や可能性、-これには音のバランス・混合音色・構造の明瞭さ等々の事項が含まれるーについて学ばなければならない」と、また演奏者や指揮者の重要性、レコードや放送の影響についても言及している。更に、「和声学と対位法の知識を欠く者はオーケストレーションの課題を解くことは非常に困難である」と述べている。

 音楽学校ではマンドリンやギターを学ぶことが少ないため流通している作曲・編曲作品に関して、特にギターの扱いが不適切な例を見かける。また、マンドリン合奏に管楽器を入れるべきか、という議論を見かけるが、それは適切な管弦楽法を適用できるかにかかっている。鈴木静一の「細川ガラシャ」においてフルートとギターで横笛と琴を模した部分(図)のフルートパートをマンドリンに置き換える訳にはいかないだろう。

中村弘明の大合奏作品

 コマーシャルソングや「お母さんと一緒」など800曲あまりの曲を残した中村弘明は青山学院の学生時代にマンドリンクラブに在籍し、コントラバスと指揮を担当していた。マンドリンオーケストラの作曲も学生時代より行っており、「死の谷」ではトランペットやシロフォン、コンボオルガン(シンセサイザー)も使われ、「6楽章のオラトリオ」ではフルート2、オーボエ1、クラリネット2、ファゴット1、トランペット2、トロンボーン2、ホルン2、ティンパニ、大太鼓、シンバル、シロフォン、ピアノ、キーボード、弦6部、女性二重唱と12弦ギター、ヴィオロンチェロ、エレキベースによるコンボ、更に混声合唱とナレーションの組み合わされた作品を残している。当時中村弘明はシェスタコービッチやマーラーに傾倒していてマーラーの交響曲の6楽章構成を参考にしたのかもしれない。

この「6楽章のオラトリオ」は残念ながらコンボの楽譜がないなどの理由で再演されたことはない。なお、「死の谷」を佐藤智彦が3管編成にアレンジし「死の谷メタモルフォーゼ」として1974年に演奏している。

その他、1990年代以降にもオーストラリアの作曲家などで比較的大きな編成の作品がある。(例)Robert Schulz, Australia

リズムマンドリーノ第11回定期演奏会

モノクロ写真は「6楽章のオラトリオ」を演奏する青山学院大学リズムマンドリーノ第11回定期演奏会 1972年 文京公会堂

 鈴木静一の未完の大作「ヒマラヤ」や、構想で終わってしまった中村弘明の「ミケランジェロ」が出来ていれば2管編成または3管編成になっていたかも知れない。

演奏時間と演奏会の構成

 マンドリン合奏曲は大きな曲が減り、演奏も小刻みになっているようだ。組曲などでも一部を取り上げることが多い。短い曲を次々と演奏する場合は演奏会全体の構成がしっかりしていないと、まとまりがなく、かえって冗長に聞こえる。

 鈴木静一の「シルクロード」は8楽章で約50分だが、7楽章にはギターアンサンブルが入るなど、変化のある構成となっている。

 レギュラーオーケストラではマーラーの交響曲が大型で知られている。例えば第3番ニ短調は全6楽章にして1時間40分ほどの演奏時間である。「千人の交響曲」とも呼ばれる交響曲第8番変ホ長調は木管16名、金管17名、弦108名その他チェレスタ 、ピアノ、オルガン、ハルモニウム、ハープ 2パート、マンドリンとティンパニ2セット他各種の打楽器という大編成のオーケストラ、独唱8名、混声合唱2組、児童合唱1組を要し、演奏時間は1時間半。

 宮崎駿監督作品の音楽を集めたコンサート「久石譲in武道館〜宮崎アニメと共に歩んだ25年間〜」が2008年8月に開催されたが、これは6管編成のオーケストラ、一般公募を含む合唱団、ソリスト(平原綾香、藤岡藤巻と大橋のぞみ、麻衣、林正子)他、計1,100人を越えるメンバーと共演している。

 オペラでの上演時間は3時間程度が多い。途中の幕間でシャンペン片手にスナックをいただくなど、劇の進行を考えながら、ゆっくりと鑑賞する。歌い手の喉を休める意味もあるようだ。ワーグナーの「ニーベルングの指輪」は15時間かかり、3日に分けることが多い。

 映画では黒澤明の「七人の侍」や「アラビアのロレンス」は3時間37分、「ベンハー」は約4時間、旧ソ連が1965年に制作した「戦争と平和」は4部作で6時間半。最も上映時間が長い映画として知られているのは1987年に制作されたアメリカ映画『The Cure For Insomnia』の5,220分で87時間だが、スウェーデン人アーティストのアンダース・ウェバーグ氏が制作した実験映画『Ambiancé』は720時間かかる。2020年12月31日公開予定だが、特報だけでも7時間20分という。

(背景はパリ・オペラ座・バスティーユでのヴェルディのオペラ「運命の力」カーテンコール)