音楽表現の手順

光星学院八戸短期大学研究紀要 第26巻に「初心者のための合奏指導と指揮.」がある

この中のスコアリーディングの抜粋を見てみる。

1)スコアリーディング

 スコアからは、いろいろなことを読み取る ことができる。その中には楽譜に比較的はっ きりと示されているものと、指揮者が読み取 らなければならないものがある。楽譜に示さ れているものとして次のようなものをあげる ことができる。 

(1)曲は何調であるか。 

(2)何拍子であるか。 

(3)どのような速度で演奏するのか。 

(4)速度はどのように変わっているか。 

(5)強弱はどのように変わっているか。 

(6)どの部分で、どの楽器に主旋律があるか。

(7)どの部分でどの楽器がソロで演奏する か。 

(8)楽器の組み合わせはどうなっているか。 

(9)打楽器がどこでどんな役目を果たして いるか。

(10)形式がどのように組み立てられている か。 

(11)曲のスタイルはどうなっているか。 

 

2)スコアを見ただけではわからないこと

 指揮者が判断し、もっとも良い方法を指示しな ければいけないこととして、次のことが考え られる。 

(1)楽器にどんな音色が要求されているか。 

(2)ハーモニーはどう構成され、どう変 わっていくか。また、そのバランスは どうとらなければならないか。 

(3)旋律は、どこからどこまでを一つのフ レーズと考えなければならないか。 

(4)その旋律は、どういう抑揚をもって演奏しなければならないか。

(5)楽譜には示されていないが、どこかで わずかに早くしたり、遅くしたりする 必要があるかどうか。 

(6)どんなアーティキュレーションで演奏 したらよいのか。 

(7)音符を長めに演奏するのか、マルカー トなのか、それとも短めなのか。

(8)どこに音楽としての聞かせ所を作った らよいのか。

 

音楽家の北村憲昭氏による合奏のマニュアル 指揮のマニュアルなど多くの著書がある。

主に吹奏楽のためのマニュアルだが、合奏をするのに参考になるので一読するとよい。

その中に音楽の表現方法が出ている。

「音楽の表現を順を追って整理してみよう」

1:まずは音符その物だけを音に置き換えてみる。

(強弱、記号、テンポ、出来れば小節線も出来るだけ無視して)

2:理解しがたい部分、一度で覚えられないような旋律を分かる様に整理する。

(音の組み合わせを変えてみる)

3:テンポやその他の書き込みと比べてみる。

4:表題や決まったリズムとの関係を確かめる。

5:なるだけ作曲家や表題などの知識を深める。

6:全体のストーリーを理解する。

(ドラマの展開を考えてみる。場合によっては、自分なりのお話を作ってみる。)

7:それぞれの部分での表現がそのドラマの進展通りになるように組み立てる。

8:それぞれの旋律、キャラクターの性格を全体から理解する。

9:一つ一つの音の表情がそれにふさわしいかを考える。

10:練習で色々と試してみる。

11:本番で自分の言葉として演奏する。

 

同じ楽曲であっても表現方法によって異なったイメージの曲となる。

マンドリン合奏でも聴かれるジーチンスキーの「ウィーン我が夢の街」は通常ウィーンに住む人が誇らしく歌っている。(歌の例)しかし第二次大戦前にウィーンを去って行ったユダヤの人達の映画「さすらいの航海」で歌われたのは同じ曲でも全く違う。これらを比較してみるのも参考になる。

曲を良くするのも悪くするのも演奏家の責任

 チャイコフスキーが作曲した交響曲5番をレニングラードで自分の指揮で初演をした。それは演奏が悪く、曲は失敗作との評価になった。しかし、その後有名な指揮者のニキシュが「ぜひやりたい」といって演奏したら大成功となり、それ以後チャイコフスキーの交響曲5番は名曲として数えられるようになった、という。

 齋藤秀雄は「作曲家は表現が二の次になり面白みが出ない。演奏者はもっと面白く、人に分かるようにすることが大切だ」という。

楽譜の信頼度

 マンドリン合奏の楽譜は印刷譜として出版されているものは少なく、作曲者のオリジナル楽譜に対して低音部や打楽器を追加されている楽譜も多い。演奏に当たっては書かれている内容が作曲者の意図したものか、編曲者や後世の演奏家による書き込みなのかを頭において表現することも重要だ。クラシックの出版譜としてはオイレンブルグ版が有名だが、今でも間違いが多いという。正しい楽譜を求める人はブライトコップフ、ベーレンライター、デュラン、リコルディ版などの信頼性が高いという。ただ、ブライトコップ版は大部分がゲヴァントハウスオーケストラの楽譜が元なので原譜に書いていないクレッシェンドなど、当時の指揮者の追記が入っていたりする。また、楽譜と演奏とは違うもので、特に歌の楽譜は違いが大きい。

 ベートーベンやモーツァルトの手書き楽譜(原譜)は汚いことで知られている。現在の印刷譜は原譜から写譜して書き起こしているので写譜ミスもある。たとえば、ベートーベンの第9の4楽章で合唱が盛り上がったところの f のフェルマータはティンパニだけがディミヌエンドとなっている。ベートーベンが作曲してから200年の間、多くの楽譜がディミヌエンドのままで、演奏もそのようだ。もと打楽器奏者だった指揮者の岩城宏之は疑問に思いベルリンの国会図書館でオリジナル(写真版)を調べた。その結果ディミヌエンドのないことを発見した。1980年当時、この部分のティンパニをディミヌエンドしないで演奏しているのは岩城宏之とジョージ・セルの2人だけだった。

 合奏するには少なくとも、スコアとパート譜は完全に一致していることが必要だ。

音の強弱