ボディ

ボディ 胴 バック

ローズウッド

 ボディの材料はメイプル(楓:かえで maple )およびローズウッドに2分される。ローズウッドはツルサイカチ属の植物に冠される総称で一般的に茶や赤茶の色をしている。日本では紫檀(シタン)とも呼ばれている。ローズウッド のなかでもブラジリアンローズウッドはハカランダと呼ばれ木目も美しい良質な素材だがワシントン条約で制限されている。一般的にはインディアンローズウッド( Indian Rosewood パリサンダーPalisander パリサンドルとも呼ばれる)が使われる。ハカランダに近いとされるマダガスカルローズウッドやホンジョラスローズウッド、パープルウッドなどは高級品に使われる。ローズウッドはバラの花のような芳香がある硬質の木材で、加工が難しいが耐久性に優れ腐食にも強いため、楽器の素材として適している。低音から高音まで幅広いレンジを持つオールマイティな木材であり、輪郭のハッキリとした堅めの音色で、サスティンが良い。ハカランダは木目が綺麗で見た目の良さを出すために板目取りとすることが多いが、音質音量のためには柾目取りのほうがよい。また、ひび割れや狂いにも強い。マンドリン系のボディ素材としてハカランダの柾目取りは最高級品といえるだろう。

メイプル

 和名では楓(カエデ)と呼ばれる。樹種や環境の差によって密度や木目に違いがある。大別するとハードメイプルとソフトメイプルになる。楽器に使われるのは主にハードメイプル(Hard Maple)と呼ばれる種類で材質は硬く、明るいサウンドが出力される。アタック(音の立ち上がり)、サスティン(音の減衰)ともに優れた音響性能を誇る。ローズウッドに比較すると、サスティンは少なく音も短めだが、実音が聞き取りやすい。ハードメイプルは強度・耐久性に優れ、構造上負荷の掛かるネック材に多く使用されている。ボディ(バック)には杢目を活かしたソフトメイプルも使われている。

 ちなみにメイプルシロップが取れるのもハードメイプルに分類されるシュガーメイプル(サトウカエデ)である。マンドリンやヴァイオリンの他ピアノやギターにも使用され、楽器以外では硬さをいかして、野球のバットなどにも使われている。

 「トラ杢」や「バーズアイ」といった木目が出るものは高級素材として珍重される。メイプルもヨーロピアンメイプルの他、カナディアンメイプル、メイプルに似たシカモアもある。シカモアはストラディヴァリウスなどのヴァイオリンに使われていた。その他パドーク(紅花梨 インドカリンなど)やウォルナット(クルミ)も利用される。最近は色が明るいためか、メイプル系が好まれるようだ。

各種ボディ材料

 メイプルの産地ではユーゴスラビアのダルマチア地方や、ボスニア地方のバルカン山地で産する通称バルカン材が楽器に最適と言われている。

ボディ形状
 ボディは駒を通してきた弦の振動を表板との間で共鳴させ、反響した音を音口(響孔)から外へ出す役割を持っている。共鳴効果を高めるにはボディは大きい方が効果は高い。またボディの形状によっても音色に変化が生じる。
 スリムなボディの場合にはややこもった暗い音になりやすく、太った形状の方が明るく張りのある音色を発すると言われる。(図は左からメイプル、虎杢メイプル、バーズアイメイプル、ローズウッド)

 エンベルガータイプのボディーはネックとの接合部分がテーパー状になっていて、ハイポジションが弾きやすい。

リブ(rib)

 ボールバックのクラシックマンドリンではリュートと同じように、リブ(肋骨)といって材料を薄く切り、接ぎ合わせてボディを作っている。通常は同じ材料を使うが2種類の材料を組み合わせることもある。ボディを整形する場合、真ん中の1本から張り始めるため、接ぎ枚数は通常は奇数で11枚から33枚程度。松島の3bisは38枚、宮野のM3、M4も38枚と偶数のリブもある。リブの間に細い板材をスペーサーとして挟み込むことが多い。リブの枚数が少ない場合で木材の乾燥が不十分だと元に戻ろうとして応力が残り、演奏音を効果的にボディ全体に伝達する力が弱まるとも言われる。リブが多い場合は強度が増し、複雑な反射が起こるためか、豊かな音で良く響く。また、ボディ固有の音が低くなり音が柔らかくなるとも言われる。ただしあまりに多いリブは技術の高さを示すにはいいが、音としては19枚程度が望ましいとも言われる。リブ材の厚さはマンドリンでは3mm(1/8インチ)前後だが、古典的なリュートでは1.5mm前後と薄い。薄い方が加工は難しいが音は響くはずだが張力の高い弦に負けないよう厚くしているのかも知れない。
 スペーサーの細い板材はリブがローズウッドの場合はメイプルを、メイプルの場合はローズウッドを挟み込み、コントラストをつけている。厚さは1mm程度。マンドリンのボディはリブで構成されているため接着剤を多く使っている。長年使っていると木材の変形で微少な隙間が出来る。そのまま使っていると汗や水分の付着などで隙間が拡大する。音に締まりが無くなったときは点検する。

リブの彫り込み

 リブは平らなままの滑らかなものと彫り込んで波打っている彫り込みリブの2タイプがある。彫り込みのあるリブをフルーテッドリブ(英:fluted ribs 伊:doghe scanel ドーゲスキャネル)、彫り込みのないリブをスムースリブ(英:smooth ribs 伊:doghe lisce ドーゲリッシェ)という。
彫り込みにより強度を落とさず、軽量化されることで軽い振動でも良く響くようになる。しかしながら彫り込みリブの加工は手作業で高度な技術を要するため永年の経験が必要であり、最近は職人が減少していて工房によっては対応できないところも出ているという。

ペーパーライニング
 リブを固定しリブ割れを防ぐためにボール(ボディ)の内部にはペーパーライニングといって紙が貼ってある。古典的な楽器であるリュートではリブの間に紙テープや羊皮紙のテープが貼られている。リブの木材であるローズウッドは接着しにくい事とマンドリンではリブが細いため、補強の意味で全面に貼ってあることが多い。1800年代初期のギターは側裏面の板が1mm程度と非常に薄くマンドリン同様に補強のために紙を貼っていた。現代のギターに紙は貼られていない。現代のギターの板厚は3mm程度。

 エンベルガーの場合はボールの内側を紙でなく薄い板が張られていて、その上にニスが塗られている。フランスのエジルドやジェラ、ビナッチャのブレベッタート( Brevettato 特許)と呼ばれるマンドリンなどは内部に何も貼られていない。貼らない方が響きはいいと思われる。しかしながらナポリ式マンドリンではこの紙貼りは古くから一般的に行われていた。国産のマンドリンではペーパーライニングに和紙が使われているようだ。木材パルプを原料とした機械生産による紙(洋紙)は50年もすると劣化するが、和紙は保存性がよく正倉院の1000年以上前の文書を見ることができる。

ボディのいろいろ

 左からメイプル虎杢彫込、ローズウッド彫込、ローズウッドスムース、2トーンスムース、野口マンドリンのゼブラ

 ボールバックマンドリンはボディだけを見ても、このように色々な種類がある。これは楽器がまだ発展途上だということを物語っている。

 リブのないワンピースのボールバックマンドリンもある。図左はナランヒージョ( Naranjillo )の木をくりぬいたもの。この木材は南米ボリビアのフォルクローレに使われる楽器チャランゴのボディ材料である。チャランゴはその昔アルマジロの皮を使っていたが、現在ではナランヒージョやハルカ材を使っている。木材の方が音は良いようだ。これらの材料は気候変動にも強くサウンドも優れている。ナランヒージョの音は一般的なローズウッドやメイプルを使ったボールバックマンドリンの音とは異なり、強力でバランスも取れているという。

装飾楽器

 1870年から1900年頃の第一次大戦前はイタリアのマルゲリータ皇后( Margherita Maria Teresa Giovanna di Savoia-Genova )がマンドリンを自分で弾くとともにマンドリン音楽を一般にも広めた。当初は王侯貴族のサロン音楽であったこともあり、豪華な装飾を施した楽器が作られたのだろう。現在でもこの装飾の美しさを競う傾向は残っている。

 ヴァイオリンでの装飾楽器では象眼や彫刻、ペイントを施しているが、そのほとんどは貴族からの注文品か、または貴族への献上品で、ヴァイオリンの歴史の中の初期から中期(17世紀~18世紀後半)にかけて数多く作られた。これらの楽器は音色を追求したものではなく権力の象徴であったと考えられる。

袖板 カバープレート キャップ

 ボディの共鳴効果を高めるには空気量を増やせばよい。ボールバックマンドリンでは、底部を丸く深くし、洋梨やイチジクを切ったような形状となっている。しかしながら演奏時には弦の張力によるボディへの圧力と振動によって後部底面がごくわずかだが後方へせり出して膨らみ、全体としては両側がやせた細長形状となる。

 このボディ後部底面の変形は音色に大きな影響を与え、曇ったり、こもった音になりやすいといわれ、これを防ぐ意味でボディの脇から後部にかけて袖板(飾り板)でカバーするのが一般的になっている。しかしながら袖板が振動を抑制している面もある。

袖板の無いタイプ

 1920、1930年代に作られた名器と呼ばれるイタリアマンドリンの中に、ボディサイドとボトム部分の飾り板が無いものがあるが、それらの多くは音が非常に伸びやかでバランスが良い。

松島マンドリンや吉本マンドリンではこれらイタリアマンドリンを参考に袖板と底板の無い楽器を製作している。左は1921年の calace 、中左はcalaceクラシコD、しっかりしたカバープレートが貼られている。中央は落合マンドリンのやや小型のプレート。中右は吉本マンドリン、右は松島マンドリンのマンドラ。これらは袖板(飾り板)の無いタイプ。ボトムが飾り板で固定されていない場合はリブの曲げ方の違いが内部応力として残り、接着剤の経年劣化で割れや剥がれが起きやすいため、精度の高い加工が必要だといわれる。

アームガード アームレスト スリーブガード

 トレモロを弾くときに手を安定させるとともに、楽器の表板に腕が接触して擦られたり、汗から保護するために取り付けられている。特に表板の塗装がシェラックの場合は塗膜が薄いため傷つきやすい、また、水分やアルコールの付着で塗膜が溶けるなどの影響を与えるため、必要といえるだろう。
 材質は鼈甲や鼈甲に似せた樹脂(ガラライト)、パリサンダーやローズウッドなどの木材が使われている。サイズの大きいもの、小さいもの、アームレストの無いものなどがある。
 テールピースに組み込まれスリーブガードと呼ばれるものがあるがこれは弦と袖の接触を防ぐ。フラットマンドリンではボディに貼り付けていないタイプでフィンガーレスト (finger rest) と呼ばれることもある。

テールピース 緒止

 テールピースはイタリア式、ドイツ式、カラーチェ式などがあるが日本のマンドリンはカラーチェ式を採用しているのが多い。スリーブガードの付いているものもある。昔のテールピースは小さいものが多かったが、重たい方が弦の振動を本体に良く伝えると言われる。
マンドリンは下駒からテールピースまでの距離が長いため、そこの部分の弦が不要な振動(倍音)を起こしやすい。これは演奏音と共振した場合に発生する。テールに近いところにフェルトを挟んでいるのは弦の振動で表板の傷を防ぐことと余分な弦の振動や倍音の発生を防ぐためであり、弦に飾り糸が巻かれているのも同様な意味がある。古い楽器では皮革を貼っているものや、人によってはガムテープを貼る場合もある。図はジェラ(GELAS)の例。

 ヴァイオリンやヴィオロンチェロの場合は弦を駒のすぐ近くからテールピースという名称の木材の部品に接続され、余分な倍音が出ないような構造となっている。このテールピースによっても音はずいぶんと異なるという。一般にチェロなど低音楽器ではテールピースがあっても低い音でウルフトーンと呼ばれる人工的な唸りのような倍音が発生する。原因は演奏音と胴体の共振周波数が一致した場合であり、これを削減するためにウルフキラー(ウルフ止め)というパーツが売られている。

いろいろなテールピース

 

上左からイタリア式 カラーチェ式 ドイツ式

 

下はスリーブガード付きの例。下左は1.2mm厚の金属で出来たスリーブガード付きのモダーンテールピース。テールピースはあまり目に付かないところにあるが、しっかりと取り付けていないと音量も響きも悪くなる。

 (図はMandolin Luthierより)

糸巻き・ヘッド・ネック へ)