マンドリンのヘッド部はその構造や重量などが楽器の性能に影響を与える。糸巻きのツマミをペグと呼ぶのは機械式になる以前に現在のヴァイオリンやウクレレと同様にテーパー型の木製のつまみを使っていた事による。マンドリンの糸巻きはナポリタイプとローマンタイプの2種類がある。
ナポリタイプはギアの部分を金属または木で隠したボックスタイプでイタリアの楽器に多い。ローマンタイプはギターと同様の溝付きヘッドでドイツのマンドリンに多い。ローマンタイプの方が弦交換はやりやすい。また弦の巻き取り方向がナポリタイプのように捻れないため良いとも言われる。カラーチェでは最近ローマンタイプも作っている。ヘッドの表面部分を工房では天神※と呼んでいる。ナポリタイプには金属や木製のギヤカバーが取り付けてあるが、見た目はともかく、音質的にはない方が良い。
ヘッドはネックに対し、ある程度の角度が付けられている。これによって弦がナットに押し付けられて安定し、またテンションバランスを整える事ができる。ローマンタイプは角度が多く付けられる。
日本は湿度が高いのでペグに水分が付いて錆びやすい。また木材と金属では摩擦が大きく滑りが悪くなりやすい。チューニング時にトルクを感じるようなら点検する必要があるだろう。ペグブッシュを使用すると防ぐことが出来るが、取り付け精度が高ければ問題は出にくい。弦を外したときにがたつきをチェックすると分る。ギヤマシンの錆止めに CRC-556 や椿油を使う人がいるが、木材やプラスチックにダメージを与えるため使わない方が良い。※天神は本来三味線の最上部で上棹を差し込んだところから上の部分の名称。
リバースギア
ギヤマシンヘッドにはツマミとストリングポストの回転方向の関係が現在普及している一般的なマシンヘッドと逆のリバースマシンヘッドがある。これはヴィナッチャやエンベルガーといった小型のヘッドを持つオールド楽器によく見られるタイプであり、ナットからストリングポストまでの距離を長く取れることや、ヘッドの長さを短くすることができるといった利点がある。ナットからストリングポストの距離を大きく取れると1弦(E)、4弦(G)のサスティンにプラスの影響があり、また、弦へのダメージを分散し軽減することができると言われる。また、ヘッドをコンパクトにでき、軽量化が可能。
図はロッコーマン社のサイトに載っているドイツ ルブナー社製マンドリン属用リバースギアマシンヘッドと通常のマシンヘッド。宮野マンドリンM-1やM-3bis、M4-bis などはリバースギアを採用している。
加工精度
糸巻きは精密機械であり加工精度が悪いと、ギアのバックラッシュ(遊び)やストリングポストのがたつきが大きい。日本の後藤ガット(GOTOH)やシェクター製のパーツは加工精度が高いことで知られている。ギア比は14:1が多い。
100年以上前のオールドに使われているギアマシンは見た目はともかく、加工精度に関しては全く異なる。オールドの楽器を実際に弾くのであれば最近の高精度のギアマシンに取り替える事が必要だ。もちろん技術の高い工房に依頼すること。ギアマシンの精度が低いと音程が安定しなかったり弦の劣化が早いそうだ。
ギターではギア比を18:1に高めたもの、ギアのバックラッシュを少なくしたタイプ( GOTOH リブリコート)や弦がずれないよう巻き付けないで調弦できるロック付きのペグ( GOTOH
のマグナムロックなどのロッキングチューナー)が開発されている。なお、ストリングポスト径は細い方が弦の巻き取り量が少ないため調弦精度が高い。ポスト径は6mm前後(5.8~6.3mm)、ポストピッチは23mmが標準的。
ペグボタン(プラスチックのツマミ)も高い精度が必要なパーツで、湿度や温度によっても音質に影響すると言われる。
シャーラーのペグは湾曲したヘッドにも使用できる設計に加え、左右それぞれのネジ歯車機構とストリングポストの高さが調整できる機能となっている。ナポリタイプの場合でストリングポストの穴位置を変えることで弦外れ防止やテンション調製が出来る。デザイン性は良いようだが、輸入品なので価格はやや高い。
弦の巻き方
糸巻きに弦をたくさん巻き付けると弦の遊び(スリップ)が増えてピッチが安定しない。スリップを止める弦の巻き方として、ギブソンでは「ギブソン巻き」(マーチン巻き)というのを推奨している。これは、弦を穴に通し、余った部分を巻く向きと逆方向に回し、弦の下を通し引っかけて、そのまま引っ張る方法で、弦巻きは1~1.5回で済む。もちろんギアマシンの精度が低いとピッチも安定しない。
ヘッド形状・素材
ヘッドは平らなものが一般的だがヴァイオリン型(渦巻きヘッド)やエンベルガー型と呼ばれる先端部が四角いヘッドもある。平らなヘッドでも先端に向かって薄くなっているのが多い。ヘッド材料はメイプルが多いがマホガニーを使っているものもある。マホガニーは柔らかいため加工しやすく、繊維方向に現れるリボン杢と呼ばれる立体的な見た目から高級家具や高級楽器などに使用される木材で、マンドリンの場合もマホガニーは明るくよく響く。マホガニーの中でもホンジュラスマホガニーが最良の素材であると言われるが、ワシントン条約で制限されている。
ヘッドの重さに関しては重い方がいいという場合もある。ギターではフェンダー社から「ファットフィンガー」というヘッドに取り付ける重りをパーツとして売っている。これを付けると低音は引き締まり、高音は明瞭になると言われる。重量は100g前後。取り付ける位置によっても効果は違うようだ。マンドリンの渦巻きヘッドやエンベルガーヘッドはそういった効果があるのかもしれない。なお、渦巻き型のヘッドは弦の張力を緩和すためにあるのだという。
ネックのサイズや形状は演奏の際の運動性とネック反りの起きやすさなどに関連する。ネックのサイズはナット幅( nut widths )で28mmから32mm(1 3/16~1 1/4インチ)程度。
一般的なボールバックのマンドリンのネックはメイプルまたはマホガニーが利用されている、第1フレット(ナット部分)で幅30mm高さ23mm程度。9フレットあたりで幅36mm、高さ31mm程度が標準的。マホガニーは高級アコースティックギターのネックにも使われていて音響的に評価が高い。
エンベルガーはV(三角)ネックで細いが、ボディとの接合部は大きくなっていてネック起きを防いでいる。
図はフラットマンドリンの場合で、6種類に分類されている。表面をローズウッド、マホガニーや鼈甲でカバーする事もある。これは見た目の良さを求めたことであり、音の良さとは逆になる。表面の滑りがいいのは演奏しやすい。野口のArtistシリーズは三角ネック、宮野は丸みのある三角ネックとなっている。
マンドロンチェロやマンドラ、ギターなどでエボニー(黒檀)を補強材として入れることもある。これはスカンクストライプなどと呼ばれている。半分のネック材を上下に合わせることでネックの反りを防ぐこともできる。しかしながら製作精度が低かったり接着が甘かったりすると、逆にネックが動いたりする。また端材に近い材を使用することで、コストを削減する事も出来る。
アコースティックギターやフラットマンドリンでは金属のトラスロッドを入れている。ネックが反った時にトラスロッドを動かすことで調整ができる。(図は MusiKraft より)
弦の張力に対するネックの強度バランスが悪い場合、過剰な温度、湿度にさらしたり、弦を張ったまま長く放置した場合にネック反りが起きる。
指板面が水平より凹形に曲がった状態を「順反り」、凸形に曲がった状態を「逆反り」と呼ぶ。曲がった状態はヘッド側からか駒側からで、指板両端の角の部分を通して見るか、長手方向から弦高と比較して確認できる。順反りになると指板全体の弦高が高くなり、逆反りになると特にローポジションでフレット打ち(弦の共鳴振動が指板に当たって発生する雑音)が目立つようになる。
新品の楽器は一年位でネックと表面板が安定してくるので、その時点でネックの反り具合、弦高等を確認することが必要。
ネックの反りは弦高に反映されるため、弦高の状態に違和感があったらネック反りを確認する。
クラシックマンドリンでは軽度の棹の反りの場合、弦高調整や打ち込むフレットの締め具合で調整する。大きく反っている場合はフレットを抜いて反った指板面を削るなどの調整をする。
(ジョイント・指板・フレット へ)