マンドリンオーケストラの大編成

イタリアの大編成マンドリン合奏 

 イタリアでは1870年のナポリ海浜博覧会のために組織された100名を超える大規模な編成でGiorgio Mticeliの海浜博覧会小夜曲が演奏された。マリオ・マチョッキは1950年にパリにあるガロ・ローマ文化時代に作られた円形闘技場の遺跡アレーヌ・ド・リュテス Les Arènes de Lutèceにおいて、200人近くの楽器奏者と聖歌隊員を集めて麦祭りを演奏している。

 ブランツォリ G.Branzoli の望まれし日 GIORNO DESIATO Capriccio はマンドリン4部、マンドラ、マンドロンチェロ、マンドローネ、ギター、アルモニウム、アルパとティンパニ(中野二郎により編曲)

 シ ルベストリー Primo Silvestri の夏の庭 Giardino Estato,crepscoro はクワルティノ2部、マンドリン6部、マンドラコントラルト2部、マンドラテノーレ3部、マンドロンチェロ2部、マン ドローネ(バス)、ギター、トライアングル、シストロ(打楽器の一種)というマンドリン族の大編成のものである。なおシルベストリーの作品にはオッタ ヴィーノというマンドリンの1オクターブ上の楽器の記載もある。

ドイツの大編成マンドリン合奏

  ドイツの作曲家コンラート・ヴェルキは管楽器や打楽器を加えた編成の作品を1920年代に作曲している。たとえば序曲嬰へ短調 Overture Fis-Mall Op.2 ではフルート2、オーボエ1、クラリネット2、バスーン(ファゴット)1、ホルン2、およびマンドリン1,2、マンドラ、マンドロン チェロ、ギター、コントラバスの弦6部となっている。打楽器はティンパニ、トライアングル、グロッケンシュピール、タムタム。このように序曲1番から6番や Die Heimreise, Ouvertüre, op.17帰郷、Die große Stunde,ein Festliches Stück, op.18 大いなる時など1929年の世界大恐慌以前の曲は管と打楽器を入れた大編成となっている。弦の人員は100名程度が適切と思われるが、当時のドイツで、その人員を集めるのは困難だったのではないか。大恐慌以後、経済の疲弊、ドイツ帝国の方針、それに対応したアンプロジウス提唱のツプフ音楽の台頭とともにヴェルキの作風も小編成化の方向となった。管楽器を含む作曲は第二次世界大戦後に発表されたヴァイオリンと2つのフルートのためのコンチェルト Am op.57 (1954)やオーボエコンチェルトDm op.97 (1978)がある。

 同じくウィリー・アルソフの交響曲も、Fl、Ob、Cl、Bn、Hr、打楽器の組み合わせ、ゲルハルド・ローゼンシュテンゲルはFl、Ob、Cl、Bnの木管楽器を含むマンドリンオーケストラの曲を書いている。

鈴木静一の大合奏曲

 鈴木静一作曲の8楽章からなる交響的幻想曲シルクロー ドop.50の編成はフルート2、オーボエ1、クラリネット2、ファゴット1、ホルン1、トロンボーン1、マンドリンⅠ,Ⅱ、マンドラ、マンドロンチェ ロ、ギター、コントラバスの弦6部とティンパニ、大太鼓、シンバル、スネアドラム、トライアングル、タムタム(銅鑼)のほかチューブベル、古代シンバル、 駱駝のベルなど非常に多くの打楽器が使われている。その他、平家物語、パゴダの舞姫、天草キリシタン、失われた都なども打楽器以外は同様で、こ れにピアノが入った編成となっている。鈴木静一の編成は弦6部で100名程度を想定していると思われるが、少ない場合には管楽器をMnやMdのソロでも可能なような楽譜となっている。シルクロードは第8楽章のアッピア街道の部分はホルンが主メロを奏し、Mnが重音の伴奏だが弦が100名規模で演奏した場合にホルン1本では弱い感じがする。アッピア街道というとレスピーギのローマの松を思い浮かべるが、ホルンであれば2,3本、またはトロンボーンが適するように思われる。写真は2014年 鈴木静一展HPより。青山学院リズムマンドリーノが1968年に演奏したシルクロードではマンドリン44名、マンドラ14名、マンドロンチェロ8名、ギター40名、コントラバス8名、管楽器12名、打楽器5名の合計131名であった。

管楽器を含むマンドリン合奏

 こうしてみると大編成のマンドリンオーケストラではフルート2、オーボエ1、クラリネット2、ファゴット1、ホルン1~2の変則2管編成(1.5管編成)ティンパニその他の打楽器およびマンドリン1、2、マンドラ、マンドロンチェロ、ギター、コントラバスの弦6部が標準的といえるのではないか。弦楽部は100名程度を想定。

中野二郎が打楽器やコントラバスなどの低音部を追加した編曲を多く残している。編曲の注に「打楽器は50名以上の弦楽合奏に入れること」と書かれている。また、オルケスタフェニックスの河野直文氏がフルオケ版と呼ぶ木管楽器などを入れた編曲を数多く行っている。

 マンドリンオーケストラの大合奏はレギュラーオーケストラのシンプルな2管編成と似ている。たとえばラヴェルの亡き王女のためのパヴァーヌは木管2管(オーボエは1)とホルン2本、ボアエルデュのバグダッドの太守は木管2管とホルン2本、ドビッシーの小組曲は木管2管と金管はホルン、トランペットが2本、トロンボーン1本とハープとなっている。いずれも弦5部。マンドリン族の音量が小さいので、弦が100名規模でも管楽器とのバランスを考えるとシンプルな2管編成くらいになるのだろう。逆に50名程度のマンドリン合奏で木管2本の編成は管が強すぎてバランスが悪い。編曲の時に調整する必要がある。

 一般に管楽器としてはフルートとクラリネットを入れることが多いようだ。クラリネットは音の強弱をかなり変化させることが出来る。またクラリネット奏者は通常B♭管とA管の2本を持っている。#系の曲の多いマンドリン合奏ではA管を利用すると楽になる。フルートやオーボエなどでの強弱表現は音域にもよるが範囲は限定される。

20~30人のアンサンブルにフルートを入れているのを聞くことがあるが、そのほとんどが音が大きすぎ、バランスを欠いている。メンバーにフルートがいるからと1stマンドリンにかぶせるような使い方は効果的とは言えない。2本も3本も使っているのは完全に音楽が壊れている。

 最近の曲では末廣健児氏の風のシンフォニアや明日への序章、内藤淳一氏のフルートとマンドリンオーケストラの為の三章、その他、あとからフルートを追加している曲もある。

打楽器のミュート

 レギュラーオーケストラの曲をマンドリンで演奏すると管楽器と同様に打楽器が強すぎバランスが崩れる。レギュラーオーケストラの曲ばかりでなく、ラテンやポピュラー曲でも打楽器の音量の大きすぎる演奏を良く聴く。そういった曲を50名以下でやるのには無理がある。もしやる場合はバランスを取るために打楽器にミュートをかけるべきだ。

 シンバル用はウレタンラバー、スネアドラムにはリングミュート、バスドラムの帯ミュート、マッフリングなど市販品もあるが、100円ショップの商品を利用している打楽器奏者も多い。例えばトムトムやスネアドラムに は耐震ジェルマット、ティンパニは制振ゴムを貼る、バスドラムはビーターにフェルトを巻く、穴ありドラムなら中に毛布(ベビー用がいい)を入れるなど。もっと安上がりにするにはスネアドラムにバンドエイドや養生テープ、ティンパニにハンカチを載せてもいい。演奏人員や会場の広さなどにより調整する。ただし、ミュートをかけると音量が減るだけでなく、一般的に高音成分(倍音)の少ない音になる。

マンドリン合奏での管弦楽法

 管弦楽法(オーケストレーション)の著作者ウォルターピストンは管弦楽法の序文で次のように述べている。「作曲家もオーケストラ編曲者も、その技術的基礎として個々の楽器の性能や特性を知り尽くしていなければならない。また、各楽器の音を心に思い浮かべてみることが出来るようでなくてはならない。その上で、楽器を組み合わせた場合の効果や可能性、~これには音のバランス・混合音色・構造の明瞭さ等々の事項が含まれる~について学ばなければならない」、また演奏者や指揮者の重要性、レコードや放送の影響についても言及している。更に「和声学と対位法の知識を欠く者はオーケストレーションの課題を解くことは非常に困難である」と述べている。

  現在ではfinaleなどの楽譜ソフトがあり、作曲、編曲した楽曲を再生して確認することが出来る。しかしながら音のバランスを確認するには十分とは言えない。鈴木静一やコンラートヴェルキの楽譜と実際の演奏を聴いて楽器の使用法、他の楽器とのバランスや効果を確認して、作曲、編曲の参考にするとよい。ただし、市販のレコードやCDの場合は録音にあたってミキサーにより調整していることが多く、演奏会場での音量バランスと異なっていることがある。

 鈴木静一の「細川ガラシャ」においてフルートとギターで横笛と琴を模した部分(図)のフルートパートをマンドリンに置き換える訳にはいかないだろう。

 音楽学校ではマンドリンやギターを学ぶことが少ないため流通している作曲・編曲作品に関して、特にギターの扱いが不適切な例を見かける。また、マンドリン合奏に管楽器を入れるべきか、という議論を見かけるが、それは適切な管弦楽法を適用できるかにかかっている。

 編曲の例は美女と野獣(アランメンケン)の初めの部分。フルートはフルートらしい音型であり、マンドリンオーケストラに対して効果的な装飾となっている。次は映画ディア・ハンターからカバティーナ(スタンリー・マイヤーズ)とミュージカルサウンド・オブ・ミュージックからドレミの歌(リチャード・ロジャース)の例。これらの例は弦50名程度が適切と思われる。

カバティーナでは2本のフルートをマンドリンの内声部に入れ。音の厚みを増やしている。ドレミは単純なメロディに飾りを入れ華やかにしている。なお、1本では厳しいので2本で分割している。

 クラシック(レギュラーオーケストラ)の編曲は鈴木静一やコンラート・ヴェルキの例のように弦100名で1.5管編成を基本において編曲すれば良いと思われる。マンドリンオーケストラでも、よく聞かれるハチャトリアンの仮面舞踏会から「ワルツ」も打楽器の大きすぎる演奏が多いが、フルートとピッコロは効果的だと思う。このパートをマンドリンに置き換えるのは困難だろう。

  原曲は2管編成でフルート2(ピッコロ持ち替え)オーボエ2、クラリネット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン2、チューバ2である。また、打楽器はティンパニ、小太鼓、シンバル、大太鼓となっている。

  こういった曲をマンドリンオーケストラでやろうとした場合に、自分のマンドリンオーケストラの規模により編曲のしかたも変わる。100人いれば打楽器を含む1.5管編成でもいいが、50名程度だと木管1~2本(フルート、クラリネットなど)だろう。それ以下の人数で管楽器、打楽器を入れた編曲は無理があるが、室内楽のような使い方をすれば可能かもしれない。

 編曲した 譜面の例は、打楽器は原曲通り、管楽器はピッコロとフルートを使っている。

 フルートとピッコロはヴァイオリンと掛け合いのフルートとクラリネットを担い、ヴァイオリンを強化しているオーボエは省略。トランペットはマンドラに、ホルンなどのリズムを刻んでいる部分とファゴット、チューバなどの低音をギターに受け持たせている。ホルン4本とチューバ2本は強力なので、ギターの人員はマンドリン(1st+2nd)と同じくらいが望ましい。これで、50名程度のマンドリンオーケストラでのバランスになると思われる。打楽器はミュートをかけた方が良いだろう。

 このようにマンドリンオーケストラの人員はレギュラーオーケストラのように決まっていないため、流通している管楽器を含んだ楽譜はどのくらいの人員が適切なのか判断しなければいけない。

中村弘明の大合奏作品

 コマーシャルソングやお母さんと一緒など800曲あまりの曲を残した中村弘明は青山学院の学生時代にマンドリンクラブに在籍し、コントラバスと指揮を担当していた。マンドリンオーケストラの作曲も学生時代より行っており、死の谷ではトランペットやシロフォン、コンボオルガン(シンセサイザー)も使われ、6楽章のオラトリオではフルート2、オーボエ1、クラリネット2、ファゴット1、トランペット2、トロンボーン2、ホルン2、ティンパニ、大太鼓、シンバル、シロフォン、ピアノ、キーボード、弦6部、女性二重唱と12弦ギター、ヴィオロンチェロ、エレキベースによるコンボ(グループジャック)、更に混声合唱とナレーションの組み合わされた作品を残している。当時中村弘明はシェスタコービッチやマーラーに傾倒していてマーラーの交響曲の6楽章構成を参考にしたのかもしれない。

この「6楽章のオラトリオ」は残念ながらコンボの楽譜がないなどの理由で再演されたことはない。なお、死の谷を佐藤智彦が3管編成にアレンジし死の谷メタモルフォーゼとして1974年に演奏している。

その他、1990年代以降にもオーストラリアの作曲家などで比較的大きな編成の作品がある。(例)Robert Schulz, Australia

リズムマンドリーノ第11回定期演奏会

モノクロ写真は6楽章のオラトリオを演奏する青山学院大学リズムマンドリーノ第11回定期演奏会 1972年 文京公会堂

 鈴木静一の未完の大作ヒマラヤや、構想で終わってしまった中村弘明のミケランジェロが出来ていれば2管編成または3管編成になっていたかも知れない。ただし、2管編成、3管編成では弦楽部分の人員は150名規模を必要とするだろう。

演奏時間と演奏会の構成

 マンドリン合奏曲は大きな曲が減り、演奏も小刻みになっているようだ。組曲などでも一部を取り上げることが多い。短い曲を次々と演奏する場合は演奏会全体の構成がしっかりしていないと、まとまりがなく、かえって冗長に聞こえる。

 鈴木静一の「シルクロード」は8楽章で約50分だが、構成は長安(西安)からローマまでの物語であり、7楽章にはギターアンサンブルが入るなど、変化のある構成となっている。

 

 レギュラーオーケストラではマーラーの交響曲が大型で知られている。例えば第3番ニ短調は全6楽章にして1時間40分ほどの演奏時間である。千人の交響曲とも呼ばれる交響曲第8番変ホ長調は木管16名、金管17名、弦108名その他チェレスタ 、ピアノ、オルガン、ハルモニウム、ハープ 2パート、マンドリンとティンパニ2セット他各種の打楽器という大編成のオーケストラ、独唱8名、混声合唱2組、児童合唱1組を要し、演奏時間は1時間半。

 宮崎駿監督作品の音楽を集めたコンサート〜久石譲in武道館〜宮崎アニメと共に歩んだ25年間が2008年8月に開催されたが、これは6管編成のオーケストラ、一般公募を含む合唱団、ソリスト(平原綾香、藤岡藤巻と大橋のぞみ、麻衣、林正子)他、計1,100人を越えるメンバーと共演している。(画像)

YouTubeの例は2011年6月23日、パリの大型ホールZenithで開催された久石譲コンサートinパリの様子。

 

ベートーベンの第9の例は東日本大震災に際して被災地に届け!~佐渡裕 一万人の第九阪神淡路大震災を乗り越えてきた関西から発信しようと、大阪城ホールと仙台の会場を中継で結び2011年12月4日に開催された。指揮は佐渡裕氏。一万人の合唱団は一般公募で各地から募集された。

  オペラでの上演時間は3時間程度が多い。途中の幕間でシャンペン片手にスナックをいただくなど、劇の進行を考えながら、ゆっくりと鑑賞する。歌い手の喉を休める意味もあるようだ。ワーグナーの ニーベルングの指輪は15時間かかり、3日に分けることが多い。

 映画では黒澤明の七人の侍やアラビアのロレンスは3時間37分、ベンハーは約4時間、旧ソ連が1965年に制作した戦争と平和は4部作で6時間半。最も上映時間が長い映画として知られているのは1987年に制作されたアメリカ映画 The Cure For Insomnia の5,220分で87時間だが、スウェーデン人アーティストのアンダース・ウェバーグ氏が制作した実験映画 Ambiancé は720時間かかる。特報だけでも7時間20分という。

背景はパリ・オペラ座・バスティーユでのヴェルディのオペラ運命の力カーテンコール

Organ²/ASLSP(英:As Slow as Possible = 可能な限り遅く)

 ジョン・ケージが作曲したオルガンまたはピアノのための楽曲

この作品は1985年、創造と舞台芸術のためのメリーランド夏期講習会主催のピアノコンクールにおける現代曲部門課題曲として作曲された ASLSP を改作する形で1987年にオルガン曲に編曲された。

演奏

 この作品は、ケージの89歳の誕生日である2001年9月5日に演奏が開始され、最初の17ヶ月間は休符であり、最初の音が鳴らされたのは2003年2月5日である。

背景

 1997年に、ドイツのトロッシンゲン音楽大学でオルガン科教授のクリストフ・ボッセルトなどの音楽家や哲学者の会議によってケージのこの作品の演奏指示の意味が議論され、オルガンにおいては事実上、時間無制限で演奏できるとされた。そして、639年に渡って作品を演奏するプロジェクトが浮上した。

 時間無制限の演奏といってもパイプオルガンの寿命は無限ではないことから、実際的な演奏期間はハルバーシュタットの教会に常設のオルガンが設置された1361年からこの企画が提案された2000年までに相当する639年とされた 。実際には2001年9月から2640年末まで演奏される。これはジェム・ファイナーのロングプレイヤーの1000年に次ぐものである。楽譜は約8ページで構成されている。