現在の日本のマンドリンアンサンブル、オーケストラはボールバックのマンドリン2部、マンドラ、ボールバックまたはフラットバックのマンドロンチェロ、クラシックギター、コントラバスの弦6部が一般的な楽器編成となっている。レギュラーオーケストラの弦楽器はヴァイオリン2部、ヴィオラ、ビオロンチェロ、コントラバスの弦5部である。これら楽器の音域と楽器間の音のつながりを見てみる。
なお、マンドリン、マンドラ、マンドロンチェロは複弦でピックを利用、クラシックギターは人の爪、コントラバスは弓(ボー)を利用する。レギュラーオーケストラの弦楽器はすべてボーを利用する擦弦楽器である。
マンドリン族の弦長バランス
マンドリンの弦長(スケール)は33.5cm程度であり、マンドラテノーレは44cm程度である。マンドラの4弦G線でマンドリンのG線の解放の音を出すにはオクターブ上なので22cmとなる。マンドリンに比較してオクターブ下の音を出すには弦長は短いといえる。しかし運指がマンドリンと同じため、これ以上大きいと演奏が困難になるだろう。マンドロンチェロは弦長57cm程度であり、3弦G線のオクターブ上は28.5cmとなりこれもやや短いが、マンドラのG線よりもマンドリンに対してバランスが良いといえるだろう。日本ではあまり使われないがマンドラコントラルトフラットバックの場合、40.5cm(15 15/16")または41.6cm(16 3/8")であり、マンドラテノーレとほぼ同様の弦長だが4弦はC音なのでG音の長さは30cm程度とバランスがよい。マンドラテノーレにマンドラコントラルトと同じ調弦に出来る適切な弦があれば、楽器間のバランスは良くなるのではないか。楽譜はト音記号のまま、移調楽器として扱えば可能と思われる。
低音楽器のバランス
ギターの65cmとコントラバスの108cmを比較するとコントラバスの4弦E線でのギターのE音はオクターブ上なので54cmとなり、ギターの弦長は長いといえる。またギターの6弦E音よりも低いC音を出すマンドロンチェロの弦長は57.5cmでは短く、63.5cmの大野ではG線の1/2が32cmとなり、マンドリンとバランスが良い。しかし、マンドロンチェロの音域はギターと重なっている。撥弦楽器属のマンドロンチェロが低音域を強化するために取り込まれてきたこと、親指でのベース音とコードまたはメロディーを奏でる独奏楽器でもありマンドリンの伴奏も受け持っていたギターが従来からマンドリンアンサンブルに組み入れられていたことから低音域が重なっている。このマンドラ、マンドロンチェロ、ギターが低音域で重なっていることとマンドリンとマンドラの隙間が大きいことはアンサンブルとしてバランスは悪いといえる。アンサンブルにおいてギターの役割は、マンドリン族とは別に考えた方が良い。
現在のマンドリンオーケストラはマンドリンⅠⅡ/マンドラ・マンドロンチェロ/ギター・コントラバスの3グループで構成されているといえる。また、マンドロンチェロで低音を出すためには楽器のサイズがやや小さい。また音のボリュームも小さいため、補強としてマンドローネを入れることがある。低音を補強するためにマンドローネも利用すると、低音域は更に込み入った編成となる。
このように日本およびヨーロッパのマンドリン合奏で使われる楽器は歴史的に複雑な楽器構成となっている。東京マンドリンアンサンブルやアマデイマンドリンアンサンブルがギターを使わない編成を試みているが、マンドラはGDAE弦のマンドラテノーレを利用している。
ヴァイオリン族の弦長バランス
ヴァイオリン属の弦楽四重奏ではヴァイオリンの弦長32.4cmに対してヴィオラは40cmで5度下、そのオクターブ下のチェロは75cmとバランスがよい。さらにコントラバスは6度下のEが低音弦であり一般的に使われるスケールは108cmであり、やや短いがヨーロッパで使われルフルサイズ(8/8)の120cmではチェロの弦長とバランスがよい。米国のマンドリンオーケストラはヴァイオリン属の弦楽四重奏と同様の楽器を利用している。ヴァイオリン属と同様の楽器構成なので楽器間のつながりやバランスは良いといえる。なお、チェロのオクターブ下のC音を出すため、5弦、または延長機構により低いC音を出せるコントラバスも利用される。