組曲 夕鶴 Op.4 中村弘明

生い立ち

 中村弘明は1947年東京の下町に生まれる。青山学院大学でリズムマンドリーノに所属し、会長、指揮者、ベース奏者として活躍。在学時代より大学マンドリン・オーケストラ等を発表の場として作曲活動を始める。最初の作曲はプレリュードスペイン。その後、学生時代にはマンドリン曲を主に作曲した。

 作曲法を姿三四郎(黒澤明監督)などの映画音楽やマンドリン音楽の作曲家でもあった鈴木静一に学び、楽理・管弦楽法をNHK交響楽団コンサートマスターの清田茂に師事した。1974年には音楽制作会社HELPを設立、ブロの作曲家としてCM曲などを数多く制作している。1992年6月、肺癌のため死去。享年45才であった。20数年の作曲活動で、CM作品850曲、歌作品300曲余りを残した。

主な作品

 マンドリン曲では組曲 夕鶴、交響詩 鎌倉、組曲 ナイチングールとバラ、交響詩 死の谷、マンドリンオーケストラのための組曲第3番 6楽章のオラトリオなどを残している。

6楽章のオラトリオはマンドリンオーケストラの大編成に演奏風景が出ている。

 1975年に損保後すがた篇でカンヌ・クワオグランプリ賞、1981年コマーシャルの音楽制作社JAMコンクールではトヨタソアラツインカムヘの旅がグランプリ賞を獲得している。CM作品では丸八真綿、エメロンクリームリンス、花王ヘアケアまつり、紀文など。(画像は高見山大五郎出演の丸八真綿CM)

 1990年にはNHK新番組の母と子のテレビ絵本(おかあさんと一緒)スタートにあたりアドバイザーとして参加。その後、同番組で歌およびドラマ音楽として、ラリルレロボット、はるのウサギ、くももくもく、ぼくのシャンプーぞうさんのぼうし白い息など多数を発表した。

代表曲 虹の伝説

 1990年6月より7月にかけて、第1回福岡アジア文化賞(ヨカトピア)委員会の委嘱により受賞式の式典片楽として作曲された交響詩 虹の伝説は中村弘明の遺作ともいえる作品で、橋本久喜指揮九州交響楽団により演奏された。マンドリンオーケストラ用に編曲され、1993年5月22日に中村弘明の死を悼んだメモリーズコンサートで演奏された。中村弘明は1988年よりクラシック及びニューエイジ系の作品では早坂遼のアーティストネームを使用している。

組曲 夕鶴 Op.4

 1950~60年代にマンドリンの作曲では鈴木静一の 人魚姫、マッチ売りの少女、服部正の かぐやひめ、などの音楽物語が作られた。夕鶴も同様の形式で作曲されたもので、日本の民話である鶴の恩返しを題材にしている。このテーマは木下順二の戯曲が知られている。また團伊久磨がこの戯曲をもとにオペラを作曲している。中村弘明の 夕鶴 は1967年10月28日、青山学院リズムマンドリーノの第6回定期演奏会において中村弘明自身の指揮で初演された。夕鶴は語りとソプラノのヴォカリーズのある組曲で、多くのマンドリンオーケストラで取り上げられている。全体的に素直なメロディーとシンプルな構成といえる。演奏によって中村弘明は第四楽章のコーダ部分を省略したり、追加したりしている。

画像は青山学院リズムマンドリーノの第6回定期演奏会のレコードジャケット

  またソプラノの最高音程は当初低く歌われることもあったが、その後記譜通りのオクターブ上で歌われている。最高音が五線上のD音であり、通常の最高音C音よりも高い。ギターがリズムを刻む部分はタンボーラ奏法を使っていたり、ティンパニのソロがあるなど当時としては新しい試みがある。

語りの石井苑子はその後、文化放送のアナウンサー、テレビ朝日のキャスターとして活躍した。

第1楽章<情景>

 ひっそりと淋しい村はずれ、心の底まで燃え尽きるような赤い夕焼けが一面に降り積もった雪の原を染めています。静かな夕暮れ時のこと若者、与ひょうは矢で傷ついた一羽の鶴を助けます。鶴は不思議そうに首をかしげ夕焼け空の果てに消えていきます。

 第2楽章<つう>

 月の美しい晩、与ひょうの家を一人の美しい娘が訪れます。やがて“つう”という名のその娘は与ひょうの嫁になり、二人で楽しい生活を送ることになり、ある晩つうは与ひょうのために美しい布を織り上げます。(画像は藤沢市みらい想像財団公演「夕鶴」1980年より)

第3楽章<嘆き>

 その布のおかげで与ひょうはお金に目がくらみ、悪い仲間にけしかけられて、またつうに織ってくれとせがみます。

第4楽章<夕空に帰る>

 与ひょうは、つうが布を織っているところを見てしまいます。自分の本当の姿を見られたつうは、美しい手羽織の布と別れの言葉を残し、初めてあった時と同じような赤い夕焼けの空に帰ります。

 

初演:青山学院大学 リズムマンドリーノ 約140名

   第6回定期演奏会 1967年10月28日(土)文京公会堂

   指揮:中村弘明 語り:石井苑子 ソプラノ:山下典子

編成:フルート2 クラリネット2 ティンパニ 大太鼓 スタンドシンバル 弦6部

演奏時間 約22分